(略図)モクトの滝(古滝)

(写真)モクトの滝(古滝)(1988年12月)

奥武蔵の入口に当たり、四季をとおしてたくさんの老若男女のハイカーが訪れる日和田山・高指山・物見山。
そんな初心者向けの丘陵のうち、高指山(たかざすやま)の近くに何と幻の滝が存在する。
そんな話を高麗本郷の駒高集落で聞いたのは、今から37年前の1988年であった。
その幻の滝の名は「モクトの滝」。
「モクトの滝」探索を行ったのは、1988年12月。
高指山から日向集落(高麗本郷)に延びる尾根を100㍍ほどくだった地点から南東に植林のなかを急下降すると、「モクトの滝」の落口に出た。
尾根道を外してからわずか5分。
滝の右壁は垂直だが、ホールド、スタンスとも豊富なので、ザイルで確保すれば容易に直下降することができる。
しかし、一般には高巻きして山腹をくだって、滝下に出た方が無難だろう。
下から見上げる滝の高さは8メートル程度だが、両側に聳える12㍍ほどの岩壁に圧倒される。
水量が乏しく、涸滝に近いのが残念だが、大雨のあとなどは一気に水量が増え、豪快な滝に変貌するという。
林のなかの水量僅かな滝だが、こんな大きな滝がハイカーの往来する奥武蔵自然歩道のすぐ近くにあるのが信じられないほど。
なお、「モクト」は滝のある斜面(ヒラ)一帯の字名で、その後駒高で聞いてみると、「古滝」ともいう。
当時地元でも知る人ぞ知る幻の滝で、もちろんハイカーの認知度ゼロ。
「私だけの滝」などと勝手に思い込んでいたら、37年後の今、ネットで「古滝、奥武蔵」と検索すると、驚くほど多くの山行記録が出てきた。
これらの記録のほとんどは「古滝」と呼んでおり、「モクトの滝」という別名に言及している記録は少ない。
それは現地に「古滝」と記した私設の表示板やテープがあるためだろう。
「幻の滝・古滝」は、バリエーション・コース好きのハイカーの好奇心をくすぐる魅力があるのだろう。
今ではもはや「幻の滝」とはいえないほど認知度の高まってしまったモクトの滝(古滝)だが、まだ未訪の方には是非訪れてみることをお勧めしたい。
ちなみに、大石真人氏は高指山について、『マウンテン・ガイドブック・シリーズ8 奥武蔵』(朋文堂、1960年)所収の「奥武蔵辞典 山名編」で次にように書いている。
「日和田山(ひわださん)と物見山(ものみやま)の間にある一峯で、頂上にラジオピーコンの中継塔が建てられており、西武池袋線の車中より目について見える。いずれも名因は高いところにある焼畑の意」
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